これはペンです/円城塔
読了。
最初「よい夜を持っている」の語り手が誰だかわからず(ここはひみつ)、混乱しながら読んでましたが読み終わってみるとなるほど。こっちが本編だ。
それ単体は機能を持たないけれど、それを使わないと何もできないという存在はコンピュータサイエンス的にはいろいろあります。OSとか、言語処理系とか。
この小説は、小説自体がそれらの処理系を何とかその形や手触りを元に書こうとしたものです。「これはペンです」が小説としての自己言及性を、「良い夜を持っている」が小説構造の自己言及性を。
ここでの小説構造は物語として語られるよりさらに手前のプロットや場面設定などもろもろのものをシリアライズしない形で表したものです。
とはいえ、「良い夜を持っている」はきちんとシリアライズされた物語として語られてます。ただ、通常小説がとりうる時系列的な方法論とは別にあたかもOSや言語処理系のソースコードのように機能の紹介や解説をしながら追いかけていくもの。
なるほどこれはコンピュータサイエンスに明るくない人には斬新に映るわ。私はたまたまコンピュータサイエンスやナリッジベースにちょっと詳しいので仕組みがわかっても「なるほど」とうなずく程度。
とはいえ、よくもまぁこういう小説をしたためようと思ったものだと感心します。私ならもっとプロットとかでわかりやすいように逃げちゃうなー。