ヴェトナムを去って
「Spring8はもう次の街へ向かう船かな」
「ハノイは刺激的でした」
「さんざん食べていたみたいだけど」
「ホァンが連れ回すの」
「現地の子かい?」
「うん。メッセージブロードキャストで知り合いだったクォンの同級生。中学1年。あ、ヴェトナムの小学校は5年までだから私と同い年だけど」
「クォンは知ってる人だったんだ」
「凄いのよ、いつの間にかスケジュールが書き換えられてて、朝食のあとはホァンと散策、昼食には帰ってきて午後の予定をこなし、夕食のパーティの途中で抜け出すスケジュールになってるの。あれ全部クォンの仕業だと思う」
「ハッキング?」
「ニコニコほほえんでたんで話そらされてたけど、間違いないと思う」
「やー、凄い子を味方に引き込んじゃったな」
「ホァンと散策って全然観光じゃないの。ひたすら屋台を回ってフォーとブンとネムザンとバインミーを食べるのよ。こっちのペースお構いなし。食べてる最中でも時間が来たら次の店に行こうとするんだもん」
「フォーとなんだって?」
「ブンとネムザンとバインミー。フォーは知ってるわよね。ブンもフォーみたいな麺料理。ネムザンはライスペーパーで草をくるんだ食べ物。バインミーはミックスサンドね」
「毎朝朝食のあとにそれだけ食べるんだ」
「不思議なことに入るのよね―。昼にはきっちり時間通りに帰ってきて昼食のレセプション。ここでおなかいっぱいだったことは一度もなかったわね。しっかり甘いヴェトナム風コーヒーまで飲んでも足りないくらいだったもの」
「ディナーの途中で抜け出したあとは?」
「夜は夜で屋台で焼肉。ホビロンを食べたのもここね。2回しか行けなかったけどまた行きたいわ。ただ……」
「どうかした?」
「3日で3キロ太ったのよ。いくらでも入るからって体型維持できてるわけじゃないってことはよく判ったわ」
「ハハハ、それは運動するしかないね」
「明日からジムに通うわ」
「ヴェトナムの子たちはどうだった?」
「ホァンははじめつっけんどんな態度でびっくりしたけど、あとでこっそりクォンに教えてもらったら英語が余り得意じゃないんであんな風になるんだって」
「自分ができないからできる風を装ってるんだ」
「もっと素直になればいいのにねえ」
「デレなかったけどなぁ」
「屋台をつれ回るのは精一杯の愛情表現だと思うよ」
「あー、そっかー」
「バンコクは友達いるの?」
「いるけどヴェトナムの二人ほど奇抜じゃないかも」
「ま、期待しないで行きなさいよ。抜け出して食べ歩くのが目的の旅じゃないんだから」
「はーい」